『王女物語』家庭教師が綴るエリザベス女王の少女時代
野次馬根性の自分を反省
著者のマリオン・クロフォードは、ひょんなことから後に女王となる5歳のエリザベス王女と、2歳のマーガレット王女姉妹の家庭教師になりました。
本書には、エリザベス王女が結婚するまでの17年間が綴られています。
著者の筆は暖かく、読んでいてほのぼのします。
王族といえども、悩み、苦しみ、喜び、恋をします。
そうした様子が、心からの敬意とともに生き生きと描かれています。
本書はは1950年に刊行されたのですが、今読むと、その後起こる予兆が既に見え隠れしていて、興味深いです。
例えば、エリザベス王女の父、ジョージ6世は1952年に崩御しますが、本書では既に体調不良であったことが伺われます。
わたしたち宮廷に日々出入りしている者は、国王さまがお疲れで、お加減が悪そうだと気づいていた。
『王女物語』286頁
また、妹マーガレット王女についても、その率直な物言いや、いたずら好きな言動が「誤解されやすい」と、著者やエリザベス王女は度々心配しています。
度を超えたおふざけのせいで誤解されるのを心配しておられた。
『王女物語』202頁
さきざき、マーガレットの人となりが捻じ曲げて伝えられたり、誤解されるかもしれない、と本能的に予感しておられたのかもしれない。
本書は王族方の素顔が暖かい筆致で書かれていますが、読み終わってちょっとモヤモヤ。
裏表紙には、こう書いてあります。
王室は、17年間家族同然に遇し、ともに暮らしたクローフィーとの関係を、静かに、永久に、絶った。彼女がおかした、たったひとつの〈罪〉は、国王一家とともに過ごした年月を、王族との健全な距離感を保ちつつ、誠実に、愛情こめて書き綴ったことだったのだが……
『王女物語』
いや、「たったひとつの〈罪〉」、重すぎるでしょ、と思ってしまいます。
私生活など誰も見向きもしない一般人の私でさえ、知り合いが無断で私の幼少時からの十数年間のエピソードを書籍化したら、嫌な気分になります。
本書を読む限り非常に親密な関係であった家庭教師が、退職した翌年にこのような本を出版するとは。
筆者は度々、憶測で記事を書く報道陣に苦言を呈していますが、心ない報道に苦しむ彼らを間近で見てきたはずの著者は、本書が彼らを苦しめるとは思わなかったのでしょうか?
エリザベス女王は、家族の問題に対して「冷たい」と言われることもありますが、それは信頼していた家庭教師に裏切られた過去があるからではないでしょうか?
一方、著者の方にも、何がしら言いたいことはあったようにも思えます。
著者は第二次世界大戦の際、王女がたの疎開に付き添い、結婚を少なくとも八年は延期しています。
勇気を振り絞って国王夫妻や王太后に相談したところ、彼女が結婚する可能性など1ミリも考えたことがなかったかのような反応をされてしまいます。
また、アガサ・クリスティの小説を読むと、イギリスの家庭教師は中流階級の女性のほぼ唯一の職種で、家族でも召使いでもないので家庭の中で孤立し、憐憫の対象にもなるポジションだったようです。
著者が家庭教師をしていた頃は、女性の社会進出も進んでいた頃ですし、王族の家庭教師ですので事情は異なりますが、それでも若干思うところがあったのかもしれません。
著者が、王室の流儀に戸惑う描写もあります。
著者の結婚についても、22歳から10年以上も勤務しているのに、言われて初めてそういった可能性があることに気がついたようです。
まるでお仕えする人にプライベートがあるなんて考えたこともなかったかのような言動が、時々描かれています。
それに、給料のほとんどが衣装代に消えるとも書いています。
住み込みの、気の張る仕事なのに、お金も残らない。
金銭的な不満もあったことでしょう。
本書を書いた理由は、多かれ少なかれお金の問題が絡んでいると思います。
それにしても、私のような庶民は王室や皇室の内実を知りたがりますが、単なる好奇心なので、分からないなら分からないで、生活にも、気分的にも全く支障はありません。
しかし暴露される当事者は心の傷を負うわけですから、こうした本は発売されない方がいいと感じました。
最後まで読んだお前が言うなよ、と言う話ですが。
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