アウシュヴィッツのお針子
人は見た目が9割
本書では、服装を整えることの大切さが繰り返し語られる。
連行される夫のために、見苦しくない靴を必死で調達する妻。
それは、過酷な労働のためには丈夫な靴が必要だから。
強制移送のために出頭するユダヤ人女性は、何を着ていくか迷い、一番良い服を着て、髪をセットまでした女性もいたそうです。
きちんとした身なりの女性は敬意をもって扱ってもらえるため、健気な自己防衛だったのです。
もちろん、そうした努力は無駄に終わります。
アウシュヴィッツに着いた彼女たちは、文字通り着ているものを全て剥ぎ取られ、それによりアイデンティティーと尊厳も剥ぎ取られます。
サイズが合わなかったり、季節が合わない服を与えられた彼女たちは、アウシュヴィッツという過酷な状況下でも、ブカブカのスカートにベルトを足したり、貴重品を入れられる携帯ポケットを作ったりしました。
清潔でちゃんとした身なりの囚人は、創意工夫をする頭があり、過酷な状況下で洗濯をする強い意志の力を持ち、人間としての尊厳を持っていることが分かり、親衛隊員からの扱いでさえやや丁寧になるほどだったそうです。
収容所からの脱走にも、見た目の力は不可欠でした。
脱走には、逃げ出した後、生き延びることも計画に含めなければなりません。
脱走した後、一般人に紛れ込まれるような衣服、頭髪、体格が不可欠です。
衣服と尊厳がここまで関わっていると考えたことはありませんでした。