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『死神の棋譜』がスッキリしないので、年表まで作って考察してみた

人生は「不詰」かもしれない

この物語の真相自体も、どうやっても玉が詰まない「不詰め」なのではないだろうかと思いました。

何が正しくて、それがいつ起こったのかちょっと分からなくなってきたので、簡単に時系列をまとめました。
以下、ネタバレがあるのでご注意ください。

時系列
赤字:信頼性薄い
緑字:事実

1989年
 2月 天谷、十河が謎の棋譜を見つけるように仕向ける(天谷の独白、メールより)
 3月 十河行方不明、天谷年齢制限で退会
 6月 十河、北海道へ渡る(天谷の独白より)
 8月 天谷、十河の実家を訪ねる、十河が北海道にいることを知る(天谷の独白より)
 9月 天谷、北海道に行き、蜂須賀・十河と会う(天谷の独白、メールより)

1991年
 5月以前 十河、天谷に謎の缶(ヘロイン)を預ける(天谷のメールより)
 5月 蜂須賀、増岡、十河、大麻製造で逮捕される

1996年
 出所した蜂須賀が天谷からヘロインを受け取る(天谷のメールより)

2000年
 十河家の墓に十河樹生の名が刻まれる(失踪したため。十河兄より)

2003年
 3月 北沢、年齢制限で退会

2006年
 3月 夏尾、年齢制限で退会

2009年
 春頃 夏尾と玖村が付き合い始め、玖村の成績が伸びる

2011年
 1月 十河死亡(水死)※事故か事件かは不明
 4月 夏尾が不正をやめる
    玖村の成績が落ちる
 5月17日 夏尾が対局控室に謎の棋譜を持ち込む
      天谷、北沢に謎の棋譜・十河との因縁を告白 
 5月19日
  ・夏尾が北海道行フェリーを2枚予約し、昼に1枚キャンセルする(北海新聞 高田より)
  ・天谷、急に北海道のチャリティー将棋大会の取材を頼まれる(『将棋界』編集長が妻の出産で行けなくなったため)
  ・山木
(・玖村?)、急に北海道のチャリティー将棋大会参加が決まる(師匠の梁田が依頼)
   ※玖村の参加も急に決まったどうかは、解釈による?
 5月20日 夏尾、天谷、山木、玖村、北海道入りする
 5月21日
  ・山木、飛行機で東京へ帰る。玖村は残る。
  山木、早朝、天谷と玖村の姿を見かける(山木メールより)
  ・天谷、レンタカーを借りる
   ※借りたのは、本当に天谷か?(天谷の筆跡に関する言及なし)
  ・バスを降りた夏尾が徒歩で姥谷へ向かう(目撃証言と、バス運転手の証言)
 6月 天谷、取材旅行でボリビアへ、蜂須賀の世話になる?
 7月 玖村が北沢に接触
 8月 北沢、玖村と北海道の姥谷へ行き事故にあう。夏尾の遺体発見される
 12月28日 玖村、地中海方面へ旅行に行く

2012年
 1月4日12:45:23 JST
  ※JSTは日本標準時 日本とボリビアの時差は13時間なので、ボリビア時間1月3日23:45:23に送信された
  北村、天谷から罪を告白するメールを受け取る
  ・十河に矢文を送ったのは自分である
  ・十河からヘロインの入った缶を預かり、5年後、蜂須賀に渡した
  ・「天野さん」という人物にヘロインの件を聞いた夏尾から、脅迫された
  ・「天野さん」は十河と思われる
  ・夏尾は「天野さん」と北海道へ行く予定だった
  ・夏尾が廃坑で事故死
 1月4日 天谷、ボリビアで死亡(崖道で滑落)犯行時刻は朝?     
 1月8日
  ・北沢、天野メールを山木に転送
  ・北沢、帰国した玖村に振られる
  ・北沢、十河の兄と話をする
    ・十河は2011年1月に死亡(墓の日付は失踪宣告日)
    ・十河は、新潟の施設に入っていたことがある(玖村の親戚経営)
    ・「天野」は夏尾の偽名
    ・夏尾は麻雀店での不正に関わっていたことがバレ、まずい立場にある
  ・北沢、天野の訃報を知り、将棋会館へ行った後、行方不明に
 1月18日
  山木、北沢へのメールに、梁田師匠が夏尾から受けていた相談を書く

  ・夏尾は玖村と付き合っているが彼女には他に男がいるらしい
  ・夏尾は去年3月まで、対局の不正に関わっていた
 1月23日 山木、車内で焼死体で見つかる ※遺体が本当に山木かは、本書では言及されていない
 4月初旬 姥谷の廃坑で男性が保護される

事件の流れとしては、次のように推測されます。
1. 玖村は、交際相手の夏尾の協力を得て、不正をして成績を上げていた
2. 夏尾が不正をやめ、暴露される恐れがあるため夏生を殺すことにした
3. 施設に入所していた十河から聞いた廃坑を、殺害場所にすることにした
4. 棋道会の棋譜を夏尾に渡して興味を持たせ、一緒に北海道に行くように仕向けた
5. 二股の相手の天谷がレンタカーを借り、夏尾を途中で拾って姥谷に行き、殺害
6. 北沢が夏尾の行方を探している話を聞き、遺体をそのままにしておくのは寝覚めが悪いので、北沢を利用して遺体を発見してもらうため北沢に接触
7. 北沢と二人で廃坑に入り、北沢の頭を殴って失神させ、救出に来た隊員に夏尾の遺体を発見させる
8. 夏尾殺しの共犯の天谷殺害を計画するが、普通に殺すと北沢が嗅ぎ回るであろうから、北沢と付き合うフリをし、北沢には十河について調査・推測するよう仕向ける
9. 天谷が寝ている隙に北沢の推測をもとに書いたメールを天谷のアカウントから送信し、翌朝天谷を殺す
10. 帰国後、用済みの北沢を振り、問い詰めてきた山木を殺害

…なんですが、いくつか疑問が。

まず、フェリーの件。
夏尾が最初フェリーのチケットを2枚買い、後で1枚キャンセルしたことは、絶対の事実です。
チャリティー将棋大会会場にいたのは、玖村、天谷、山木の3人ですので、夏尾殺害は、この3人の中の誰かであることは確実です。
ほぼ玖村で間違いはないと思うのですが、北沢のメールが気にかかります。
「最初は予定がなかったのですが、前日に師匠の梁田から連絡があって、ブッキングしていた棋士の都合が悪くなってしまったので、玖村女流二段と一緒に行ってくれないかといわれ、急遽行くことになりました。」
この文章では少し分かりにくいのですが、ピンチヒッターとして急に北海道に行くことになったのは山木ひとり。玖村はもともとチャリティー将棋大会に行く予定だった、と読むのが普通ではないでしょうか?
となると、夏尾がフェリーで一緒に北海道に行こうとしていた相手=夏尾殺害の主犯は、天谷か山木です。

天谷死去を受け、編集長がわざわざボリビアまで飛んだのも疑問です。
「編集長は天谷と親しい」と書かれてはいましたが、いちライターの死で、そこまでするでしょうか?
編集長がボリビアから帰国後、To北沢、Cc山木にメールをしているのも、怪しいです。
なぜわざわざ山木にCcで送る必要があったのか?
さらに編集長は、北海道にいる北沢に「早く東京へ帰ってきた方がいいんじゃないかな」と意味深なことも言っています。

ともあれ、総合的に判断すると、夏尾殺害の犯人は玖村でほぼ間違いないのですが、どうにもスッキリしません。
理由は2つあります。

1つは山木の存在です。
なぜ、夏尾殺しの犯人(でほぼ確定)の玖村は、わざわざ北沢の推理の進捗を報告したのでしょう?
夏尾の死が「事故死」となった今、余計なことはして欲しくないはずです。
山木は純粋に夏尾の死に疑問を持ち、兄弟子から言われた玖村は、断るわけにはいかなかったのでしょうか?
それとも、山木が玖村の交際相手で、黒幕とか?
山木の成績の変化に関する記述はありませんでしたが、山木も夏尾のイカサマの恩恵に預かっていたとか?
でも、山木のメールを読むと、棋道会を馬鹿馬鹿しいと書いていたりと真っ当な内容なので、山木黒幕説はないと思うのですが。。。

もう一つは、北沢の夢の中で、龍神棋を戦うために龍の口に向かう一団の中に玖村もいたことです。
「入るのは簡単にできるよ。興味とやる気さえあればね」と、北沢の夢の中で十河は言います。
ということは、逆に言えば、龍の口へ向かうには、「興味とやる気」がなければなりません。
もし玖村が本当に不正をしていたのなら、龍の口に行けるでしょうか?
北沢が玖村の戦績から推測し、山木がメールに書いたため、玖村が不正をしていると読者は思いました。
しかし、これが単なる偶然であり、山木が玖村に罪を着せるため、メールに書いたとしたら?

そして、山木の殺害に関しては、もう一つ可能性があって、真犯人は北沢ではないかとも考えられるんですよね。
北沢は玖村に未練があり、玖村を殺人犯にしたくなかったので、真相に気づきつつあった山木を殺した、という解釈も成り立つように思います。

そもそもこの物語自体も、どこまで本当のことが書かれているのか怪しいものです。
本書は北沢の手記です。
これは、冒頭ではっきりと示されています。

この報告(とさしあたって呼ぼうと思う)を読んでくださる人は、私があえて採用した用語の適切さを認めてくれるだろうと確信する。

『死神の棋譜』7頁

つまり、山木と『将棋会』編集長との間のメールと、新聞記事以外は全て、北沢が書いているのです。
その北沢は姥谷で保護された後、「医師や警察官に事情を少しずつ話はじめている」とされていますが、精神に問題があろうことは、容易に想像がつきます。
北沢自身も「信頼できない語り手」なのです。

本書はもしかしたら、あえて不可解な点が残るように、本書自体が「不詰」となるように書かれているのかもしれませんね。

そして、北沢自身が、「死神」の駒なのではないでしょうか?


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