『先生はえらい』の感想・考察
「先生」とは、人が自ら学ぼうとするときの触媒である
私は「先生」と呼ばれる人たちが嫌いです。
卒業式に教師への尊敬を強要するかのような『仰げば尊し』を歌わせるところとか、本当に嫌でした。
『先生はえらい』
すごいタイトルですよね。
神戸女学院大学の元教授が書いた本です。
普通なら鼻持ちならない本だろうと読む気にもならないのですが、著者の内田樹さん自体は好きで、今まで何冊も著書を読んでいたのと、良い意味で変な人が多く、書かれている事の裏の裏、行間を読みまくる東大生がすすめる本と言うことで、食わず嫌いをせずに読んで見ることにしました。
たとえ何一つ教えてくれなくても「先生はえらい」
裏表紙にこう書いてあります。
「先生はえらい」のです。
たとえ何一つ教えてくれなくても。
「えらい」と思いさえすれば学びの道は開かれる。
誰もが幸福になれる、常識破りの教育論。
夏目漱石の小説『こころ』の「先生」を例に挙げています。
『こころ』は高校生の頃、現代文で読みましたが、わたしには「先生」のどこがいいのか、さっぱり分かりませんでした。
内田樹さん的にも「先生」は「わけのわからないおじさん」であることを認め、逆に「先生」が「わけのわからないおじさん」であるからこそ「先生」なのだといいます。
もう一つ、能楽の『張良』と言う話を紹介しています。
張良は、中国の漢の始祖、劉邦の軍帥です。
馬に乗った張良の師匠が、張良とすれ違う際に沓を落としてひろわせた。
それが2回繰り返されたことにより、張良が「兵法の奥義」に目覚めた、という内容です。
『こころ』では、「先生」は結局何も教えません。
しかし、「先生と遺書」の章の「二」に次のような言葉が書かれています。
私は何千万といる日本人のうちで、ただあなただけに、私の過去を物語りたいのです。あなたは真面目だから。あなたは真面目に人生そのものから生きた教訓を得たいといったから。
あなたが無遠慮に私の腹の中から、或る生きたものを捕まえようという決心を見せたからです。私の心臓を立ち割って、温かく流れる血潮を啜ろうとしたからです。
「私」は「先生」から何かを学ぼうとし、小説には直接的には書かれていませんが、何かを得たのでしょう。
『張良』では師匠の黄石公はそこまで深く考えて沓を落としたのではないと思いますが、「兵法の奥義」を四六時中思索していた張良は、勝手に誤解して目覚めたのでしょう。
この2つの事例を通し内田樹は語ります。
出来事から「これは何を伝えようとしているのか?」と問いを立てることによってのみ、人は学ぶことができる。
人は「先生」から勝手に「謎」を生成し、勝手に「謎」の解を学ぶ。
この時、この謎の答えを先生が知っているかどうかは重要ではなく、先生は知っているけれど自分を知らないと弟子が考えていることが重要で、そう考えているからこそ弟子は先生から何かを学び得る。
そして何事かを学び得た後になって初めて、その学習を可能にした「先生」の偉大さを思い知るので、「先生はえらい」のだ、と。
先生から何を学ぶのかは、学ぶ人の度量による
先生と呼ばれる職業に就いている人が無条件に「えらい」のではなく、「あなたが『えらい』と思った人が先生である」のですね。
この「えらい」というのは多分に誤解を含んでいるけれども、「先生はえらい」から「先生は何を伝えようとしているのか?」と問いを立て、何事かを先生から学ぼうとすることにより、先生が教えようとしていないことを生徒が学ぶ。
それが学びの主体性ということなのだそうです。
そのため、ある人にとっての先生は他の人にとっては先生ではないことはよくあることですし、たとえ同じ人を先生と認めていても、その先生から学ぶことは人によって違うということになるのです。
そういえば、イチローが引退した時のスポーツ選手のコメントが興味深かったので、いくつか抜粋します。
松坂大輔投手:プロ入り前からその姿を追いかけ、今の僕がある。もう一度イチローさんに投げたかった。
大谷翔平選手:教えていただいて、勉強になった。昔から見てきた選手像を目標にしてやる。
オリックスの田口壮野手総合兼打撃コーチ:ベースボールと野球の歴史の中で一番偉大な選手だったことは間違いない。
サッカーの三浦知良選手:常に刺激をもらった。
大相撲横綱白鵬関:大記録とは抜かれるためにある。未来の若者が越えていかないと。
各自がイチローを先生と目していたかどうかは分かりませんが、コメントを見ていると、なるほど学びの深さ浅さというのはあるのだな、と思います。
この本は中高生向けの本だそうですが、この概念を持つかどうかで人生の学びが結構変わってくるのではないかと思います。
さすが東大生が選んだ本だけのことはあります。
欲を言えば、難しい年頃の中高生よりは、もう少し下の小学生向けに書いて欲しかったです。
その年代なら大人の言うことを素直に聞いてくれそうなので。
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