進撃の巨人30巻 あらすじと未解明の謎・伏線と30巻までの内容を踏まえた考察【ネタバレ注意】
違和感を鍵に、進撃の巨人を読み解く
諌山先生は伏線の張り方が本当に上手だと思います。
私は12巻までを一気読みしたので、そこまでは深く考察することなく読み進めてしまったのですが、今読み返すと、ライナーやベルトルトの行動に違和感を覚える描写がいくつかあります。
実際、カミングアウト前に彼らが巨人であることを見破っていた方がいるようですね。
さて、エレンですが、9歳の頃、ミカサを強盗から助けるために彼らを惨殺します。
これ、どう考えても異常ですよね。
今思うと、ウォール・マリアを破られ「駆逐してやる!」と巨人に復讐を誓うエレンも、ミカサが引くほどの形相をしていました。
そして異常なまでの自由への執着。
30巻でもエレンは言っています。
他人から自由を奪われるくらいなら
オレはそいつから自由を奪う
今まで主人公補正でエレンを見ていたのかもしれません。
少々正義感が強いのではなく、異常なほど自由と仲間を愛し、自由と仲間を害されるくらいなら相手を殺すことも厭わない。
そういう男の話なのかもしれませんね。
マンガではみないタイプの主人公ですが、映画ではいそうですよね、こういうタイプ。
進撃の巨人30巻あらすじ
エレンはジークと接触し、始祖の巨人の力を発揮しようと試みます。
マーレ側はそれを阻止しようとします。
ジークは叫びの力を使い、脊髄液入りのワインを飲んだ兵士たちを巨人に変えますが、その直後、マガトに脊髄を撃ち抜かれます。
ジークは死に、エレンは始祖の力を使えなくなった。俺は務めを果たした。
そう考えたライナーは、自らをファルコ巨人に食べさせることで、ファルコを人間に戻そうとします。
しかし、ガリアードが代わりに食べられ、ファルコを助けます。
ジークは生きていました。
撃たれる直前、巨人から抜け出し、死んだふりをしていたのです。
ジークに駆け寄るエレン。
二人が接触する直前、ガビの対巨人砲が火を吹き、エレンの首が吹き飛びました。
気がつくとエレンは始祖ユミルのいる「座標の空間」にいました。
ジークは、すべてのエルディア人を不妊にせよと始祖ユミルに命じるようエレンに言いますが、エレンは拒否します。
代わりに何かをユミルに命じようとしますが、ユミルはエレンを無視します。
始祖ユミルは、王家の血を引くものを主人と思い服従する、奴隷だったのです。
ジークはエレンにかけられたグリシャの洗脳を解こうと、エレンとともにグリシャの記憶に入っていきます。
ウォール・マリアが破られた日。
グリシャはレイス王家に巨人の掃討を願い、それが叶わないと知ると、予定されている未来の通りに彼らを虐殺しようとします。
しかし、グリシャはどうしても巨人になり幼いレイス家の子供たちを殺すことができませんでした。
エレンはそんな父親に迫ります。
死んだ者たちに報いるために、成すべきことを成せと。
座標の空間に戻ってきたジークは、始祖ユミルにすべてのエルディア人の生殖能力を奪うよう命じ、ユミルは座標に向かって歩き出します。
生前の始祖ユミルは奴隷でした。
豚を逃がした濡れ衣を着せられ、逃げた先で池に落ち、背骨のような謎の生物に寄生され、巨人化します。
巨人化能力を得た後も王に利用されます。
土木工事をし、戦争で敵兵を倒し、褒美として王の子を産ませられます。
王をかばって死んだ後も、巨人の力を継承させるために亡骸は娘たちに食われます。
2000年間ずっと、始祖ユミルは王の呪いに縛られ続けていたのです。
そんな始祖ユミルにエレンは語りかけます。
終わりだ。オレがこの世を終わらせてやる。
誰にも従わなくていい。お前が決めていい。お前が選べ。
待っていたんだろ。ずっと。二千年前から。誰かを。
その言葉に始祖ユミルの瞳に光が戻り、現実世界のエレンの肉体が修復されました。そしてエレンが巨人化すると同時に壁が壊れ、無数の巨人たちが姿を現しました。
解明されていない謎・伏線と考察
エレンは何を知っていて、何を知らないのか?
エレンとジークがグリシャの記憶をたどる旅。
ここが何度読んでもしっくりと来ません。
第121話『未来の記憶』で、ウォール・マリアが壊され、グリシャがレイス一家と対峙する場面。
ジークはエレンに言います。
この一家はここでグリシャによって皆殺しにされる。
お前はかつてこの記憶を見たと言ったな。
そして父親に深く失望した。
あれも嘘だった…のか?
ジークが言っているのは、29巻第115話『支え』でマーレ国内のレベリオ収容区の病院でエレンとジークが再会した時のことでしょう。
エレンはこう語っています。
あることをきっかけに親父の記憶が開いた。
親父が壁の王家一家を皆殺しにした時の記憶だ。
エレンは、グリシャ巨人がフリーダ巨人を噛み殺し、レイス一家を潰した様子を回想します。
しかし、エレンが見たグリシャの記憶は、これだけだったのでしょうか?
ジークの言葉が耳に入っていないかのようにエレンは険しい顔をして、フリーダに訴えかけるグリシャを見ています。
グリシャは「未来は決まっている」と言い、巨人化してレイス一家を虐殺しようとしますが、「子供を殺すなどできない」とメスを取り落とします。
「馬鹿な…」「過去が変わる…わけが……ない」とつぶやくジークの言葉に、エレンは一瞬悲しそうな顔をしますが、グリシャに「死んだ人間たちに報いるために進み続けろ」と迫り、虐殺は行われます。
しかし、惨殺された子供達を見るエレンは、とても悲しそうでした。
思うに、エレンは直前まで自分がグリシャを焚きつける役割だということを知らなかったのではないでしょうか?
グリシャの記憶から戻ってきたとき、エレンは言います。
感謝してるよ、兄さん。
あんたがオレを親父の記憶に連れ込んだおかげで今の道がある。
つまり、エレンがあの瞬間にあの場にいなければ、グリシャは復権派の務めを果たさず、今の未来はなかったと言っているのです。
ということは、急に険しい顔になったあの時、エレンはグリシャか、もしくは自分自身の未来の記憶を覗いて、自分が数分後に果たす役割を知ったのではないでしょうか。
4年前、ヒストリアの手にキスをした時にエレンが見た記憶は、グリシャが見たエレンの未来の記憶でした。
ここは、すごくまわりくどいですよね。
自分自身の未来の記憶ではなく、グリシャが見たエレンの未来の記憶なのです。
これは、自分自身の未来の記憶は見えないということなのでしょうか。
それとも、他の意味があるのでしょうか。
そしてエレンは、グリシャが見た未来のエレンの記憶を全て見ることができているのでしょうか?
虐殺後、グリシャはそこにいるであろうジークに向かって呟きます。
エレンの…先の記憶を見た…
…しかし
まさかあんな…恐ろしいことになるとは…
エレンも未来の記憶を語る時、なんとも言えないどこか遠くを見るような、悲しそうな顔をしています。
オレは親父の記憶から、未来の自分の記憶を見た。
あの景色を…
エレンが見たのは未来の自分の記憶です。
グリシャは、「エレンの先の記憶」と言っています。
グリシャの知っていることを、エレンは知らない可能性があるのです。
図に表すと次のようになります。
エレンも、グリシャも、全ての記憶を共有しているわけではないことがわかると思います。

今の段階で推論できること。
・エレンは、未来の自分が見た「あの景色」の記憶がある。
恐らくそれは、「地ならし」された後の景色。
・エレンはなんらかの理由で、その未来を肯定している。もしくは必要悪だと思っている。
そのため、その未来に沿うように行動している。
・しかし、レイス家の虐殺は、本当は行いたくなかった。
・ジークの「安楽死計画」は実行されることはない。
・グリシャは、エレンの次の「進撃の巨人」継承者の記憶も見たが、それは恐ろしい未来だった。
その記憶をエレンも見たかは不明。
エレンは何をしようとしているのか?
上述のように、エレンはなんらかの未来を視ていて、そこに向かって行動しています。
その未来は、多数の犠牲を伴うものと推測されますし、実際に犠牲者も出ています。
しかし、エレンはできるだけ犠牲者の数を減らしたいと考えている様子も描写されています。
例えば第119話『兄と弟』で、ジークが脊髄液を飲んだ兵士たちを巨人化しようとした際、「ー待て」と制止しようとしています。
また、グリシャにレイス一家を殺害させた後、亡骸を前に悲痛な表情をしていました。
そこまでして、エレンは何を行おうとしているのでしょうか?
答えは、エレン自身が何度も語っています。
「壁内人類を守る」
「自由を守る」
この2つです。
「壁内人類を守る」
これについては、第123話『島の悪魔』で、全ユミルの民に向けて告げています。
オレの目的は、オレが生まれ育ったパラディ島の人々を守ることにある
しかし世界はパラディ島の人々が死滅することを望み、長い時間をかけ膨れ上がった憎悪はこの島のみならず、すべてのユミルの民が殺され尽くすまで止まらないだろう。
オレはその望みを拒む。
壁の巨人はこの島の外にあるすべての地表を踏み鳴らす。
そこにある命をこの世から駆逐するまで。
「自由を守る」
これについても、30巻121話『未来の記憶』でこのように語っています。
他人から自由を奪われるくらいなら、オレはそいつから自由を奪う。
父親がオレをそうしたわけじゃない。
オレは生まれた時からこうだった…
問題はその方法です。
エレンは本当にパラディ島以外の全世界を地鳴らしで壊滅状態にするつもりなのでしょうか?
エレンは始祖ユミルに、「オレがこの世を終わらせてやる。オレに力を貸せ」と言っています。
「この世」とは、始祖ユミルのいる座標の世界のことでしょうか。
それとも文字通りエレンたちが生きる現実世界のことなのでしょうか?
ここで気になることがあります。
エレンは未来に何が起こるか知っています。
普通タイムトラベル物では、主人公は過去や未来を変えようと奔走します。
誰よりも自由を尊んでいるエレンが、悲惨な未来を知っていながら、シナリオ通りに動こうとするでしょうか?
注意すべきなのは、グリシャにレイス一家を惨殺するよう迫った時は、時間を遡ったのではなく、グリシャの記憶を辿ったに過ぎないので、その出来事自体はどうしても変えられなかったということです。
エレンはグリシャを脅迫し、グリシャは巨人になり、レイス一家を殺害する。
エレンがそこまで理解して行動していたかは不明ですが、エレンはそう行動するしかなかったのです。
一方、30巻の最後で、エレンは壁を破壊し、巨人たちを解放し、地鳴らしを発動させようとしています。
これは、未来を変えようとしているのでしょうか、それともシナリオ通りの行動なのでしょうか。
もし、エレンが未来を変えようとしているとしたら、エレンが見た未来とは、どのようなものだったのでしょう。
それはおそらく、壁内人類が抹殺された未来だったのでしょう。
仲間たちを助けるために、壁外を地鳴らしする行動に出たのだと考えられます。
では、シナリオ通りの行動をあえて取っているとしたら?
エレンは地鳴らしを発動し、パラディ島以外の人類を滅亡させようとしています。
いくらエレンが壁内人類大好きとしても、それ以外の方法を模索しようとしないのはあまりにも不自然です。
となると、やはりエレンはエレンなりに未来を変えようとしているのでしょう。
それは、サシャが死んだ時のエレンの様子からも伺えます。
サシャの死を伝えられた時、エレンは笑い、その後激しい怒りをあらわにしました。
サシャが死ぬ未来を知っていたかどうかは分かりませんが、サシャを助けられなかったことについて自分を責めているように見えます。
諌山先生の回りくどい設定の謎
もう一点どうしても引っかかるのが、エレンが見た未来というのは、グリシャの記憶を通して見ているということです。
エレンは直接その未来を見ていません。
グリシャというフィルターを通した未来を見ているに過ぎないのです。
なぜ、諌山先生はそんな回りくどいことをさせているのでしょうか?
人間の記憶は意外とあやふやです。
例えば、「ショッピングモールの迷子」という実験があります。
家族の証言による実際の過去の記録3つに「ショッピングモールにおいて迷子になった」という嘘の記録1つを混ぜることで、4分の1の被験者に対してその嘘の記憶を埋め込むことに成功したという実験です。
実生活でも、学生時代の友人と昔話をすると、同じ出来事を話していても記憶に食い違いがあることがあります。
エレンはいつ、どのようにしてグリシャの見た未来を見たのでしょうか?
グリシャが未来を見た瞬間の記憶をエレンが見たのなら、記憶の齟齬は少ないでしょう。
しかし、グリシャが未来を見たときのことを思い出している記憶をエレンを見たとしたら、グリシャの記憶は変わっている可能性があるのです。
普通の物語なら、登場人物は自分の未来を直接見ます。
ギリシア神話のトロイの王女カッサンドラが、自分自身の処刑を予言したように。
わざわざ他の登場人物を経由して未来を見せるという演出をする物語を読んだことはありませんが、だからこそここに何か意味があるはずです。
二千年前の君から
進撃の巨人第1話のタイトルは『二千年後の君へ』です。
エレンが「長い夢」を見ていたことから、「ループ説」もささやかれていました。
122話目にして第1話のタイトルと対になる『二千年前の君から』が来たことにより、ループ説は大きく後退しました。
122話は始祖ユミルの過去の物語だったことから、二千年前の始祖ユミルから、二千年後のエレンへのSOSの話だと考えられます。
ところで先日、アメリカ土産に進撃の巨人の英語版の1巻をもらいました。
第1話『二千年後の君へ』の英語のタイトルは、”To You, 2,000 Years From Now”でした。
『今から二千年後の君へ』です。
単に『二千年後の君へ』でしたら、”To You After 2,000 Years”になるはずです(とgoogle翻訳先生がおっしゃってました)。
わざわざ”From Now”を入れた理由はなんでしょう?
エレンから、未来の誰かに続く物語なのではないでしょうか?
A TITAN!
余談ですが、壁から超大型巨人が顔を覗かせるシーン。
英語版だとなんだか可愛らしいフォントで”A TITAN!”と。
なんだか「あ、ダンゴムシ!」みたいな感じで…
もう少しフォント、なんとかならなかったんでしょうかね…

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