ナウシカは、人類を滅亡に導いていなかった(かもしれない)
『風の谷のナウシカ』は、遠い未来の地球の話です。
産業革命から1000年後、人類は繁栄を誇っていましたが、地球は大地も大気も汚染され、満身創痍の状態でした。
遺伝子操作により生命体をも意のままに操っていた人類は、「調停者」「裁定者」としての巨神兵を作り出します。
ある日、巨神兵により都市は焼き払われ、高度な文明は失われてしまいました。
汚染された大地には巨大な菌類が繁茂して「腐海」を形成し、猛毒の瘴気をまき散らしはじめました。
腐海には巨大な蟲達が跋扈し、その頂点に王蟲が君臨していました。
腐海はどんどん広がり、人類の居住可能地は狭くなっていきます。
瘴気は人間の健康も犯し、石化する病気が蔓延しています。
腐海を焼き払おうとしても、蟲を1匹でも殺すと、他の蟲や王蟲が怒り狂って反撃し、その骸を養分として菌類が繁殖し、腐海がさらに広がるという悪循環に陥っていました。
ナウシカは大国トルメキアの軍務に参加したことにより、王蟲と心を通じ、南の森に異変が起ころうとしていることを知ります。
王蟲の暴走による爆発的な腐海の拡大、大海嘯の前触れではないかと危惧するナウシカは、調査のため軍務を継続します。
やがて彼女は、腐海の真実を知ることになります。
腐海の真実とは
もともとナウシカは独自の研究により、清浄な空気と水の元では、腐海の菌類も巨大化せず、瘴気を出さないことを突き止め、腐海の毒は大地の汚れによるものであることを突き止めていました。
(映画版では「井戸の底から集めた砂」で栽培していましたが、原作では土については触れられていません)
その後、ペジテのアスベルと腐海の底に落ちた時、マスクなしで呼吸ができたことで、腐海の奥底の菌類の木が崩壊し空洞化した場所では空気が清浄化されていることを知ります。
トルメキアと土鬼との戦争で、土鬼は生物兵器としての粘菌を用います。
その菌は爆発的に成長し、従来のマスクが効かない猛毒をまき散らします。
しかしその粘菌は不安と恐怖で助けを求め、それに応えた森や王蟲達は孤独な粘菌を腐海に迎え入れるため、大海嘯を起こします。
王蟲と粘菌の集結地で、ナウシカは以前心を通わせた王蟲と再会します。
無益な争い、生命を作り変える傲慢、人間とその行いに絶望したナウシカは、王蟲とともに腐海の一部になろうとします。
しかし王蟲はそれを良しとせずナウシカを助け、ナウシカは王蟲の心のさらなる深淵を垣間見ます。
王蟲の深淵を覗いた上で、帰ってくるかどうか。
その脆い状態に、土鬼の皇弟ミラルパの魂が付け込もうとします。
ミラルパの「虚無」からナウシカを守るため、「森の人」セルムはナウシカの心の森から、現実の森へと魂を誘導します。
そこで見せられたのが、腐海の真実です。
腐海ができてから1000年、最初に腐海に飲み込まれた土地はすべての毒素が浄化され、清浄な土地が広がっていました。
草が生え、鳥が飛び、樹が生えている世界。
清浄な世界に愚かで残虐な人間が住んでは、また同じ過ちを繰り返してしまう。
ナウシカは、人間の汚した黄昏の地で生きていこうと、戻ってきます。
生物兵器の粘菌は、土鬼の地にある「シュワの墓所」の知識によるものだと知ったナウシカは、墓所の扉を閉めるため、ナウシカを母と慕う巨神兵とともに墓所の扉を閉めに向かいます。
墓所への道中、ナウシカは不思議な空間を訪れます。
そこは緑に溢れ、絶滅した動物たちのいる、天国のような場所でした。
ナウシカは庭の主により、腐海のさらなる真実を知ります。
腐海の尽きる場所、清浄の地に人間は住めないことを、森の人セルムは知っていました。
何人も人を送り込んだものの、皆血を吐いて死んでしまったと。庭の主は、人間だけでなく、現在生きているすべての動植物が、旧人類によって汚染された地でも生きられるように遺伝子操作されているといいます。
腐海も、汚染された大地を浄化するために人為的に作られた植物でした。
浄化が果たされた後、腐海は滅び、庭に保存してある旧世界の動植物を復活させる計画。
そのプログラムを担っているのが、シュワの墓所。
ナウシカは、遺伝子を操作してまで人類を存続させようとし、自分たちを浄化の暁には滅びるべき種として改造した旧人類に対し、激怒します。
シュワの墓所で、汚染に適応した現人類を元に戻す技術もある。浄化された世界では、人間は今よりも穏やかな種族として蘇ると聞かされても、ナウシカは墓所を否定します。
生命を操作することは、生命に対する最大の冒涜である。
生きることは変わることだ。変われない墓所は最も醜い。
人類の存亡も、生命の存亡も、この星が決めること。
このように断罪し、巨神兵を使って墓所を破壊します。
墓所内部に眠っていた、新人類の卵もろとも。
ナウシカは生命を操作することは最大の冒涜と断罪していますが、ここに最大の矛盾があります。
なぜなら、ナウシカ自身も、ナウシカの世界で生きとし生けるものすべての生命も、改造された身体を持っているからです。
今現在生きているものは仕方がない。
だって、すでに起こってしまったものなのだから。
しかし、これから改造することは、冒涜なので許さない。
これは既得権益ではないでしょうか。
人類のみならず、すべての生命の未来を断ち切る行動を一個人の感情で決めてしまい、しかもそれを当事者の誰にも告げない、その姿勢には疑問を感じますが、ここでは置いておきます。
私たちよりも文明が劣っている世界に生きるナウシカは、生命の力を信じ、適応能力を過大評価しているかもしれないのですから。
ナウシカの希望的観測は外れ、生命は滅亡する
しかし、進化を許すほどの時間は、人類には残されていません。
例えば風の谷。
人口500人程度の小国ですが、子供の死亡率が非常に高いと思われます。
1巻でユパが1年半ぶりに風の谷を訪れ、不在の間に髪を上げた(成人した)女性に「タリア川の石」をプレゼントするのですが、わずか2人しか該当者がいませんでした。
子供の数はそこそこ多そうなのに、成人する前に亡くなってしまうとしか考えられません。
また、平均寿命も短そうです。
眼帯がトレードマークのミト爺は7巻で、石化が始まり右手がこわばり始めていたと語っています。
ミト爺の年齢は、なんと驚きの40歳!
過酷な生活が、見た目を老けさせているのでしょう。
風の谷には老人と子供が多そうでしたが、「老人」に見えた人たちも40~50代くらいなのでしょう。
そして、腐海から比較的離れているトルメキア王国でも死亡率が上がっていることが本文中で示されています。
さらに土鬼の領土の2/3は大海嘯で腐海に飲み込まれました。
腐海に没した土地には、土鬼の穀倉地帯サパタも含まれています。
地図の外の地域がどのような状況かはわかりませんが、他国の話は全く出てこないので、侵略できるような国家はもはや、存在しないと考えられます。
1巻のユパの見立てでは、100年を待たずに「この大陸」は腐海に没するだろうと言われています。
わずか100年では、腐海の毒にさらに耐性を持つ進化は、全く望むべくもありません。
現人類と現生物は、自力での存続は不可能なのです。
ナウシカは、人類を滅亡に導いていなかった(かもしれない)
6巻でナウシカはセルムに導かれて、腐海の尽きる先の世界を見ます。
そこでは大地は浄化され、草が生え、鳥が飛び、樹が生えています。
清浄な土地では、ナウシカの世界の動物たちは生きることができません。
「墓所」もしくは「庭」で保存されていた旧生物を復活させたものと思われます。
しかし、一見したところ人間の姿は見られません。
おそらくまだ人間は復活させられていないと考えます。
その根拠は、ナウシカの言葉にあります。
「樹だ。樹がはえてる……」「土が生まれはじめているんだ!!」(6巻91ページ)
2013年、東京都の沖合で海底火山が爆発しました。
流出し続ける溶岩は、近隣の西之島を飲み込み、溶岩で覆われた島となりました。
現在の西之島には、生命が全くいない死の島ですが、今後はまず、草が生え始めると考えられています。
海流に運ばれたり、鳥の足に付着するなどして植物の種がもたらされます。
やがて鳥が住み着き、鳥たちの排泄物や死骸などがゆくゆくは土を作り、植物を育てます。
浄化後の世界も、同じようなプロセスを辿っていくと思われます。
腐海が浄化した大地は、金属の結晶のような砂で覆われています。
このような土地では、木は育ちません。
まず草が育ち、鳥が育ち、少しずつ土を作っていかなければなりません。
森の中でさえ土の層が1cm積み重なるのに、100年かかると言われています。
清浄な大地では、ようやく木が育ちはじめたところです。
人間が畑作を始めるにはまだ土ができていないため、まだ人間は復活されていないのかもしれません。
そういえば人間どころか、動物の姿も見えませんでした。
今はまだ、すべての基本の土作りの時期と考えられます。
ナウシカは、生命復活システムの中枢を担っている墓所を破壊してしまいました。
しかし私は、ナウシカの墓所破壊にかかわらず、新人類は復活可能だと思います。
だって考えてもみてください。
地球浄化プロジェクトで、人類復活の要となるシステムを、たった一箇所にしか建造しないでしょうか?
しかもその一箇所は、プロジェクト開始場所(最初に腐海が生まれた場所)から遥か遠くに離れた場所です。
最終戦争が迫っている時期に墓所を築いた人たちは、巨神兵による攻撃で破壊される可能性を考え、複数の墓所を築かなかったでしょうか?
個人使用のパソコンでさえバックアップを取ります。
墓所が一箇所しかないなんて、絶対にありえません。
ナウシカにより墓所や人間の卵が破壊されようと、他の墓所がきっと新人類復活プログラムを遂行するでしょう。
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ディスカッション
コメント一覧
【人類の存亡も、生命の存亡も、この星が決めること。】
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じゃぁお前1人が神にでもなったつもりで殺すなww と思うんだけどw
実際に審判を下すのが星であるなら
旧人類の抵抗とも取れる生き残りを否定するかどうかも 星(運命)に任せるべきじゃないの
火の七日間は戦争ではないでしょ
調停と裁定の神である巨神兵よって人類に下された裁定
巨神兵よる一方的な殲滅
それが火の七日間
しかし物理的に世界の隅々まで隙間なく焼き尽くせるわけがなく
被害を免れた地域やまた地下シェルターや宇宙ステーション等で難を逃れた人間達もいてたはずで
それらの生き残りが集まって文明再建プロジェクトを開始したんだろう