<!-- もしもアフィリエイトでかんたんリンクを貼る時、 レスポンシブを有効にするためのタグ-->

『源氏物語を知っていますか』一千年も読み継がれてきたこのお話の、どこがそんなにスゴイのか

現代に置き換えても成り立つストーリー構成が凄い

阿刀田高さんの「●●を知っていますか」シリーズは、難解な古典を阿刀田さんなりの解釈を加えながら、わかりやすく軽妙な語り口で解説してくれるのでほぼ全てのシリーズを読んでいました。
しかし源氏物語は『あさきゆめみし』や『はやげん! はやよみ源氏物語』でストーリーの流れは掴んでいるので、まあいいかな、と食指が動かないでいました。
子供が古典で「桐壺」「若紫」を読み、マンガを読みつつ話をしているうちに、「古典とはいえ、現代から見てとんでもないマダオな源氏の物語が、全体として面白いと感じてしまうのはどうしてだろう?」と疑問に思い、阿刀田さんならこの疑問に答えてくれるかと、本書を読み始めました。

源氏物語は54帖、原稿用紙で約2400枚にもなる大長編です。
原稿用紙で約2400枚とはどのくらいの分量かピンときませんが、約100万文字、単行本にして約1200ページくらいになるそうです。
そのため、『源氏物語を知っていますか』も約500ページと、他のシリーズに比べて長く、内容も他のシリーズと比べてあらすじの趣きが強くなっています。

とはいえさすが阿刀田さん。
単なるあらすじでは終わらず、「この人物は後で出てくるので覚えていた方がいいですよ」「ここではこのエピソードが重要ですよ」と随時教えてくれるので、読者としては重宝します。
何しろ源氏物語は登場人物が膨大で、しかも名前がコロコロ変わるので、誰が誰やらさっぱりわからなくなってしまうのです。

とりわけおかしかったのが、六条御息所が伊勢へ行き、源氏と別れる場面。

しかし、これが二人の最後ではない。御息所はこの後に姿を見せて得意技を示す。乞うご期待、ですね。

また、小説家ならではの視点も面白いです。

源氏物語は大河小説の雄大な流れのかたわらに、ところどころ溜池でも置くように短編小説風なエピソードをちりばめる趣向を採っている。溜池はもちろん本流と関わりがあるけれど、独立した作品として読むほうがふさわしい。よく読むとそう見えてくる。

その他にも、第一帖『桐壺』と第二帖『帚木』の間には5年の月日が流れていて、研究者の意見を総合すると、物語に記されていない5年間の間に、源氏と藤壺は肉体関係を持ったことは確からしい、とか、
源氏が須磨・明石に隠遁後、許されて都に帰る2日前、早めの時間に明石の君に会いに行った時に初めて明石の君の容姿をきちんと見て別れがたい思いになった。子供まで作っておいて今頃ようやく顔を見たのかい、とか、
こうしたことは現代語訳を読むだけでは分からないところなので、逆に理解が深まります。

紫の君を拉致するくだりも、『あさきゆめみし』では決心しかねていたところ、紫の君があまりにも愛らしく涙を浮かべているのを見て、突発的に決心して連れて帰ったような描写でしたが、実際には何回も説得しに出向き、紫の君も源氏になつき、父親の迎えが明日にでもくるという日に連れてきているので、これはもう、用意周到に準備した上での行動ですね。

意外だったのは、当時の「契り」の定義です。
当時は、姫君の御簾や障子の中に入ったら、既成事実があろうとなかろうと「一線を越えた男女関係」と見なされたそうです。
仮に何もなかったとしても、周りはそうは思わない、ということで、現代でいえば「ホテルで一夜を過ごした」ようなものでしょうか。
そういえばこの定義があるからこそ、「何も起こらなかった一夜」を夕霧と過ごした女二の宮、薫と過ごした大君は周囲の誤解に苦しんだんでしたね。
一方、赤鼻の末摘花の場合は、源氏と「契りを結んだ」ものの、既成事実があったかどうかははっきりとは分からないとのこと。

こんな調子で、500ページはあっという間に読めてしまいます。

では、女たらしの話である『源氏物語』は、千年もの時を超えてなぜ人々を惹きつけるのでしょう?
結局、よく分かりませんでした。
よく分からないんですけど、なんとな~く面白いんですよね、この物語。

ラノベの主人公ばりにチートな設定の主人公が、女にモテまくる。御坊ちゃまは打たれ弱くて、何か起こると「私ほど悲しい目に遭った者はいない」とさめざめと泣いていい気な者ですが、なぜか面白い。
宇治十帖は若い頃はつまらなかったのですが、主体性のない浮舟が二人のイケメンの間でふらふらし、極端な解決法に走った結果ようやく自我が芽生え、変わらずグダグダしている薫より成長していくストーリーはむしろ光源氏の物語より面白いですし、現代的なのではないでしょうか。
舞台を現代に移しても、普通に面白そう。

つまり、こうした普遍的な人間模様を描いているから人を惹きつけ、面白いんでしょうね。


リクエスト受付中です!
記事下のコメント、お問い合わせフォームツイッターのDMなどで、お気軽にご連絡ください。