『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』ネタバレと考察(のようなもの)
階段島は七草のために作られたのかもしれない
階段島シリーズ第3作目です。
前2作から一転して、今までの主人公 階段島の七草ではなく、現実世界の七草が主人公の話でした。
これは予想外でした。
七草も真辺も、階段島と現実世界では、性格が若干違いました。
階段島の七草は、全てを見通している、もしくは予測しているかのような超然とした雰囲気がありましたが、現実世界では年相応に迷ったり、戸惑ったりしています。
人格を引き抜く前真辺由宇も、階段島での彼女のように真っ直ぐに突っ走りはせず、悩み、彼女らしくない行動をとります。
とすると、階段島の二人は、紛れもなく彼ら自身の一部をより強調した人格なのでしょう。
あらすじ
現実世界の七草は、転校してきた真辺由宇と再開します。
その夜、真辺由宇からたった1行のメールが届きました。
「七草は引き算の魔女を知っていますか?」
このメールをきっかけに七草は引き算の魔女を探し始め、魔女に会った人を知っているという少女、安達に会います。
しかし、そのとき七草は既に魔女に会い、自分自身の一部を捨てていたのでした。
七草は安達の紹介で、魔女にあったことのあるという男性、秋山さんと会います。
秋山さんは、階段島での「100万回生きた猫」でした。
彼は、自分の「臆病さ」を捨てたことを後悔していました。
一方、真辺由宇は文化祭の準備をせずに頻繁に帰ってしまうことで、クラスで問題になりつつありました。
七草が理由を尋ねても、「できれば答えたくない。秘密にすると約束したから」と答える真辺。
そしてそれ以外にも真辺は「七草にだけは相談できない」悩みがあると言います。
真辺の秘密は、大地でした。
大地は「母親を嫌いになれない自分」を捨てるために引き算の魔女を探していて、真辺はそれに協力していたのでした。
しかし、大地が魔女を探し始めたのは安達の入れ知恵でした。
安達は大地を利用して、引き算の魔女をおびき出そうをしていました。
魔女の正体と安達
『その白さえ嘘だとしても』で「引き算の魔女」が堀であることが既に判明しています。
しかし私は、七草が電話で話した印象が堀とは違ったことから、堀は魔女本人ではなく、魔女の代理として動いているのではないかと推測したのですが、堀が魔女で確定のようですね。
考えてみれば、ほとんど話さない無口な代理人なんて、代理人の役目を果たせませんしね。
しかし、魔女についてはもう一捻りもふた捻りもあるような気がします。
引き算の魔女が一人とは限りませんしね。
女性キャラクターには今後も注意を払う必要があります。
そして本作『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』では、新しい女性キャラクターが登場します。
新キャラ・安達は、赤縁メガネといい、核心に迫る何かを知っているかのような言動といい、エヴァンゲリヲンの真希波・マリ・イラストリアスを連想させます。
安達の正体が最後に判明するのですが、その正体もなんとなく真希波っぽいですし。
七草と真辺の不穏な関係性
1作目の『いなくなれ、群青』を読んだ時点では、成長する過程で捨てられる人格を主人公にした画期的な小説だと思いましたが、3作目まで読んで少し考えが変わりました。
七草と真辺は、どうも共依存の関係にあるように見えます。
共依存とは、Wikipediaによれば「自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態(アディクション)を指す」です。
引き算の魔女と会うことにより、七草は「真辺由宇が変わってしまうことへの怖れ」を、真辺由宇は「七草に甘える感情」を捨てました。
特に七草は真辺由宇と再会したわずか3日後に、真辺に関する感情を捨てたことは興味深いことです。
再会しなければ「真辺への信仰」を持っていたとしても問題はなかったけれど、再会してしまったら、その感情は不自然で歪んだものである。
そうした自覚があったからこそ、七草は直ちに決断したのでしょう。
ですが、階段島の人格たちはどうなのでしょう?
私は、最終的に階段島の人たち、少なくとも七草と真辺と大地は現実世界の人格に再統合されると考えています。
問題は、階段島の人格は成長しないことです。
せっかく現実世界の七草と真辺が共依存の関係から脱却したとしても、階段島の人格が統合してしまったら、元の木阿弥です。
今後のストーリーで、階段島の人格たちも成長していくのでしょうか?
七草と魔女の関係
引き算の魔女に関する最も古いネットの書き込みは7年前で、七草が通っていた小学校で毎週土曜日に待っている、というものでした。
また、七草が初めて魔女と話した時に魔女が「貴方は捨てたいんですか? それとも、拾いたいんですか?」と質問したことや、堀に会ったことがあると思い出したことから、七草は7年前に既に人格を引き抜いてもらっていたと思われます。
もしかしたら、魔女が初めて人格を引き抜いたのが七草なのかもしれません。
そしてその引き抜かれた人格を捨てるわけにはいかないので、階段島を作ったのかも。
そうなると、階段島にはまだもう一人の七草の人格が生活しているはずです。
同じ高校一年生として。
義務教育ではないので高校に通っているとは限らないのですが、同じ年代の男性って、誰かいましたっけ?
「100万回生きた猫」と佐々岡くらいしか思いつかないのですが。
いずれにせよ、7年前のネットの書き込みは小学3年生のものではありませんでしたから、引き算の魔女は複数存在するか、もしくは協力者がいると思われます。
となるとやっぱり時任あたりが関わっているのでしょうか。
『その白さえ嘘だとしても』で時任は、小学4年以前の七草を知っていると語っていますし。
時系列
何月何日に何をした、とやけに日時が何度も出てくるので、何か意味があるのではと思ってメモしていましたが、特に何もありませんでした。
前作『その白さえ嘘だとしても』でも、事細かく時間を記していたので、作者の河野裕さんは日時にこだわる人なのかもしれません。
せっかくメモしましたし、何かの役にたつかもしれないので書き記しておきます。
ちなみに本作の曜日は、今年の暦と同じなんですよね。
8月25日(火)真辺と2年ぶりに再会。
夜、真辺から「七草は引き算の魔女を知っていますか?」というメールを受け取る
8月28日(金)魔女に会い、人格の一部を捨てる
8月31日(月)安達と初めて会う
9月25日(金)真辺に、2年前に笑った理由について嘘を言う
夜、階段島の七草と会う
10月4日(日)安達と、秋山さんに会いに行く。堀とすれ違う
10月29日(木)階段島で魔女に会う
11月14日(土)母校の小学校を訪れ、偶然吉野と会う
夜、魔女から電話
11月15日(日)真辺に、自分の一部を捨てたことを話す
この間、真辺と大地が自分の一部を捨てる
11月23日(月)階段島の七草と会う
12月5日(土)秋山さんと、安達に会う
12月7日(月)真辺の部屋へ招かれる
12月19日(土)真辺とともに大地に会う
12月25日(金)安達と会う
2月10日(水)大地が計画を実行する
2月11日(木)安達が望みを叶える
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