『君の膵臓をたべたい』原作小説は、本当に泣けた【ネタバレご注意】
主人公の性格設定に意味があるのが良かった
よくあるお涙頂戴の難病ものかと思って敬遠していました。
タイトルも猟奇的で、新人作家がタイトルで釣ろうとしているのかと思っていました。
子供に勧められて読んでみたところ、勝手な先入観と思い込みで今まで読まなかったことを後悔し、これから人が良いと勧めるものは、まず読んでみて判断しようと誓うほど良い小説でした。
ある日、高校生の「僕」は病院で「共病文庫」と書かれた一冊の文庫本を拾います。
それはクラスメイトである山内桜良が綴った秘密の日記帳で、膵臓の病気により余命がいくばくもないと書かれていました。
日記帳を見たことで、家族以外に明かされていない桜良の病気を知ることになった「僕」は、桜良の行動に振り回されることになります。
「僕」は、人間に興味を持てず、友人もいない少年です。
最初は、こうした人間に興味を持たず、友人もいない男子に、美少女がちょっかいを出してきて、はじめは煩わしく感じていたけどだんだん打ち解けて良い雰囲気になってくる系の話かと思い、若干辟易していました。
ライトノベルやゲームでこの手の少年・男性が主人公の話はよくありますが、コミュニケーション苦手の少年がこの設定を鵜呑みにして、女の子の方から声をかけてくるのを待って待って待ち続けて、結局何も起こらなかった、ということってよくあるんじゃないかなーと、実は密かに心配しています。
大学生時代にいつも男3人でつるんでいて、恥ずかしいのか何なのか女子に話しかけない3人がいましたが、結局大学・院と6年間一緒だったにも関わらず、一度も話したことがありませんでした。
私だけでなく、周りの女子も皆、話したことがないと言っていました。
実験や実習もあったのですが、彼らは偶然にも苗字が五十音順で並んでいて、名簿順にグループ分けをしてもいつも一緒だったので、なおさら「部外者」は話しかけるきっかけもありませんでした。
『君の膵臓をたべたい』の「僕」も、そうした無愛想にしているのになぜか美少女に好かれてしまう御都合主義の主人公かと思っていたのですが、ラストで、この性格設定がこの物語に必要だったことが判明し、感動しました。
桜良に会うまで、人に興味を持たないでいることを選んだ「僕」。
別れ際に桜良に手を振られても、手を振り返すことなく背を向けます。
それが桜良に出会って、彼女に振り回されることを選び、「旅行は楽しかった」と伝えることを選び、桜良と仲直りすることを選び、お見舞いに行くことを選び、抱きしめることを選んだ。
桜良亡き後は、桜良のような人間になることを選びます。
人を認められる人間になることを選び、人を愛せる人間になることを選び、桜良の親友と友達になることを選びました。
桜良と関わるようになって、最初は草舟のように流されるまま迷惑にさえ思っていた「僕」の心情が、次第に桜良からの連絡を待つようになり、一緒にいて楽しいと思うようになり、その気持ちを素直に伝えられるようになり、喧嘩をして仲直りをし、「生きていて欲しい」と桜良に懇願する。
「僕」の心境の変化が丁寧に綴られています。
そして、ラストで変化していったのは「僕」だけではなく桜良もそうであったことが明かされます。
「僕」が桜良を尊敬し憧れたように、桜良も「僕」の、他人の評価にとらわれずに生きている姿に憧れていました。
互いに互いを唯一の存在として「選んだ」二人。
自分が相手を心の底から憧れていることに気づいた二人は、期せずして二人とも同じ言葉に辿り着きます。
「君の膵臓を食べたい」
ところで今まで私は『君の膵臓をたべたい』の主人公の少年を「僕」と書いてきましたが、理由があります。
「僕」の名前がラスト近くまで明かされないのです。
もちろん登場人物たちは「僕」の名前を呼びますが、小説中では【〇〇】くんと表記されています。
例えば【地味なクラスメイト】くん、【秘密を知ってるクラスメイト】くんなどと。
「僕」は自分の名前を呼ばれた時に、周りの人間が自分のことをどう思っているか想像しています。
【〇〇】は、「僕」が想像した内容です。
しかし、ある時から桜良は「僕」を【?????】くんと呼ぶようになります。
これは、桜良の心境が変化したのか、「僕」の気持ちが変化したのか。
それは本書を読んでのお楽しみ。
そして更に、「僕」は桜良を名前では決して呼びません。
いつも「君」と呼んでいます。
それは、桜良の名前を呼ぶことで、自分と桜良との関係に意味付けをするのが怖かったから。
しかし、物語のラスト、桜良が死んでから1年後の世界では、「僕」は「桜良」と呼んでいます。
「僕」の中で桜良との関係がしっかりと意味付けされたからでしょう。
自分らしく1日1日を丁寧に生きよう、ぶつかっても、傷つけられても怖れずに人と関わろうと思わせてくれる小説でした。
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