掟上今日子の推薦文
「忘却探偵」だからこその離れ業が光る
「忘却探偵」掟上今日子シリーズの2作目です。
『鑑定する今日子さん』『推定する今日子さん』『推薦する今日子さん』の3章仕立てであり、1章でちょっとした謎解きがあり、それが続く事件の伏線となっています。
『鑑定する今日子さん』
美術館で警備員をしている親切守が、「人生の転機」で出会った3人の人物について語っています。
親切守の人生を「転ばせた」一人目の人物が、掟上今日子です。
彼女は時々美術館に来訪し、一枚の絵の前で1時間ほど佇んでいます。
総白髪の掟上今日子を老女と間違えた親切守が、椅子を貸し出そうかと声をかけたところから、物語が動き出します。
掟上今日子は、いつも長時間鑑賞しているその絵の価値は2億円だといい、その後も何度か同じように鑑賞していくのですが、ある日を境に、その絵を素通りするようになります。
その理由を問うた親切守、掟上今日子はその絵の価値は200万円だから、と答えます。
絵は寸分違わず変わっていないというのにーー
謎自体は、ちょっと絵画についての本を読んだことのある人なら察しがついてしまうような内容ですが、200万円の絵を2億円にまで高めてしまうソレを見てみたい気がしますね。
ソレについては、名だたる美術館、それこそルーブル美術館やオルセー美術館、メトロポリタン美術館などで意識したことはあるのですが、審美眼の乏しい目では価値を計ることはできなかった悲しい過去があります。
『推定する今日子さん』『推薦する今日子さん』
1章の事件で警備員の職を失った親切が、その原因となった老人から個人的に警備の仕事を依頼されます。
助っ人候補の掟上今日子と老人宅を訪問したところ、下腹部を刺された老人を発見してーー
容疑者が非常に少ないので、犯人は誰でも推測できるでしょう。
動機も、中盤以降で察しがつきます。
この物語の面白さは、老人がかばっている犯人を、どうやって自ら自首させられるのか、なのですが、ここで「忘却探偵」の設定が活きています。
全体を通しての感想
…とはいえ、プロットがちょっと弱いところが難点です。
老人は自分の仕事の集大成を守るために親切を雇おうとしますが、そこまで警備員にこだわらなくてもいいのでは?
全体的に親切の行動指針の融通がきかず、職を決める時にうじうじと瑣末なことにこだわって決断しません。
あまりにも過剰なこだわりなので、今後その設定を活かすために、作者が老人に親切を「警備員」として雇おうとさせているのでは?と考えてしまいます。
親切の優柔不断問題については、今後のシリーズを読んでからの判断になりますね。
もう一つ、老人の刺された位置が推理の根拠となっていますが、これもちょっと弱いなーと思います。
例えば私が人を刺そうと思った場合、カッとなって衝動的に刺すのなら振りかぶって刺すかもしれませんが、最初からそのつもりで向かうなら、私は女性で力がないので、ナイフの柄を骨盤で支え、体ごとぶつかるように向かっていくのではないかと思います。
それなら傷の位置も下腹部になるので、掟上今日子の推理の根拠が弱くなると思うのですが…
そして、老人の集大成の仕事。
老人のかつての夢をも叶える仕事とされていますが、文字通りピースが少なすぎるのでは?
このピース数では、名匠の集大成を飾る作品にはなり得ないと思います。
そして、犯行の動機となった出来事の解消方法も、「え?そんなのでいいの?」と思うような内容。
「その人、そんなことで満足する?私でさえ、その提案を受けることはプライドが許さないよ?」と思ってしまいました。
とまあ、いろいろツッコミどころはありましたが、気楽に読むには楽しめました。
掟上今日子シリーズは今の所13作でている人気シリーズなので、他のお話も読んでから、このミステリの是非を判断したいと思います。
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